とある町のママの話


「いらっしゃい」

 

「ねぇママ~、いつものお願い!」

 

「はい。はい。」

 

私は、気になっていた男性とごはんを食べてきた訳だが、なぜか気疲れてしてしまっていた。

早くひとりになりたかったのだが、馴染みの店にふらりと寄ってしまった。

 

ママは忙しくお酒を作っては、酔っぱらいの相手をも器用にこなしつつ、笑顔と気配りを忘れない。

そして、ケアが行き届いているロングヘアは、どんな時でも、サラサラのままだった。

男性ファンからの人気だけでなく、女の私まで、憧れてしまうほどだ。

 

出されたお酒は、いつもよりも濃いめだった。

私の気分を察知したのだろうか。

 

「ママって、ほんと、すごいよねー!」

 

「どうしたの?急に。」

 

「だってさー、一人で店切り盛りしてさー、酔っぱらい相手にさー、逃げ出したくならない?」

 

「大変よ~。でも私にはココしかないから。」

 

いつも不思議だった。

目鼻立ちの整ったママが、決して大きいとは言えないこの町で、どうして一人で店をしているのだろうかと。

 

「あー!どうして、男に生まれなかったんだろう。ぜったい、ぜったい、ママのこと、幸せにするのにー!」

 

「ありがとね。でも、私、恋花だから」

 

「あー、恋って掃除みたいに片付けられたら、どんなにいいんだろう。忘れたいのにさ。泣いて泣いても一人なんだよ」

 

私には

いちばん想い出の人がいる。

 

あのとき

どこまで離れたのかな

いつものことだと、どこかになかったかな

 

わかっている

きっときっと繰り返すばかりだもの

だけど

いつかどこかで確かめてみたいと

なりふりかまわぬ恋をしてみようとするけれど、

全てを無くす愛なら...

 

「私ね、迷ったときには、心に花の咲く方を選ぶの。愛の言葉をさがすより、そばにいたいって言うの。」

 

「ママー、そんな素直になれれば苦労しないってばー。」

 

ドアが開いた。

 

「いらっしゃ...」

 

ギターを抱えた男性。

真っ直ぐママを見つめているその横顔は、鼻筋が通っていて、

どことなく、ママに似ている。

 

男性がぼそっと、

「水色のブラインドが...」

 

「え?ブラインド?」

私は意味がわからなかった。

 

ママは、振り返り、肩を震わせ、

何も言わずに、うつむきながら、オレンジジュースみたいな飲み物を、その男性に差し出した。

 

ママの名前が、店名ではないこと。

心に花が咲く名前をつけたであろうこと。

どうして、ここで一人で待っていたのかということ。

私にはわかった。

決して、人前では見せないママの涙で。

 

常連のお客たちは

 

僕は上手に君を愛してるかい

愛せてるかい

 

と、お世辞にも上手とは言えない歌声で、盛り上がっていた。

 

私はお代を支払い、店をあとにした。

店を出ると、まもなくして雨が降り始めた。

 

はじまりはいつも. . .

 

 

 

 

 

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※長ーーーーーい妄想にお付き合い下さり、

どうもありがとうございましたm(_ _)m

ステキな店名の看板を見つけてしまい、妄想が膨らみ過ぎましたww